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誰もが、叫びをあげた張本人へと呆然と視線を向けていた。
それは、紅だった。彼女は顔を真っ赤にして、体を小さく震わせていた。
「なんで、喧嘩なんてしなくちゃならないんですか。おかしいじゃないですか、そんなの。そりゃ、いきなり仲良くしろって言っても難しいかもしれません。でも、少なくとも、今、殺すなんて、軽々しく言わないでください……っ!」
言い切った。震える声で、彼女は思いのたけを口にした。
これにはさすがに何も言い返すことはできないらしく、榎戸も奈々尾も、苦々しげに目を逸らした。そして他の人々も、気まずそうにそわそわと体を動かしていた。
「いやあ、若いのにいいこと言うねえ、お嬢ちゃん!」
瞬間。沈黙を乱暴にぶち破るような低い声が、広間にこだました。初めて聞く声だ。
声がしたのは、西棟に続く廊下の方。慌ててそちらへ目を向けると、一人の男がこちらへ向かって来ていた。
遠目に見てもわかる。あれは、身長が2メートルにも達しようかというとんでもない大男だ。底の薄いわらじを履いており、浮浪者か何かと間違いそうなほど口髭と顎髯が長いが、よく見るとそれらはしっかり手入れされて整えられており、得体の知れない威圧感がある。
肌は浅黒く、真っ青な半袖のTシャツからのびる腕は、筋肉が隆々だ。
そして何より目を引くのは、彼が右腕に担いでいる、人間一人くらいなら一刀両断できそうなほど巨大なハサミだった。
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