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「あー確かに! 確かに確かに! 一理あるぜ、兄ちゃん」
俺の言葉を捻り潰すかのような大音量で、苗代は笑った。
「あんた、そっちの嬢ちゃんとも同じように、人の命を軽んじられるようなタイプではないと見た。立派立派、いいぜ立派だ。人間できてるねえ」
「何が言いたいんですか……!」
「いや、だから立派だっつってんだ。誰も欠けることなく、ここから脱出しようってハラなんだろ? いいんじゃねえか、そういうやり方も」
だが、と彼は嘲るように笑う。
「俺はそんな選択肢は選ばねえ。俺はあんま頭いい方じゃねえからよ、もっと単純で、簡単な方法をとらせてもらうぜ」
「単純で簡単な方法……?」
「おいおい。ここまで言えばわかんだろ。あのトリカブトとかいう奴のルールに従って、誰かをぶっ殺すってことだよ」
やはり。言わずともわかることだったが、動揺せずにはいられない。
苗代は凶器を持っている。今この場で人を殺すことも可能だろう。
「待て……!」
だが、その時。苗代の後方から、やや息切れした声が飛んできた。
「人殺しだと。そんなことは認めんぞ。苗代さん、大人しく凶器を床に置くんだ」
そこにいたのは、髪を短く刈り込み、無精髭を生やした男。浅黒い肌や筋肉質な体型は苗代に似ているが、彼に比べればやや細身だ。
つまり、他でもない、加納 武人だった。
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