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「紅さん……大丈夫ですか?」
「は、はい。何とか……」
そうは言うものの、紅の表情は青白く、体はわずかに震えていた。
「き、如月さんは、怖くないんですか……? あんな、人を殺すかもしれない人が、そばにいて……」
「そりゃ、怖いですよ。危険だし、何とかしなきゃならないとも思います」
「なら、何で。そんなに落ち着いていられるんですか……?」
返答に困った。もちろん俺とて、焦りや不安は感じている。ただ、それを表には出さないようにしているだけだ。
しかし逆に考えれば、心中を外に出さない“程度の”不安しか感じていない、ともいえる。つまり、まだ心のどこかに余裕があるということだ。
だが、何故そのような余裕が生まれるのかは、自分でもわからなかった。
苦し紛れに口を開こうとした、その時。茶天が会話に割り込むようにして言葉を流した。
「最大の恐怖は、“逼迫”と“闇”から生まれるわ」
「え……?」
俺も紅も、目をきょとんとさせて彼女を見る。
「私達の今の恐怖の根源は、ただ一人、苗代さんだけよ。そして現在彼は、西棟の部屋でのんびりしてることでしょう。つまり私達に、作戦を練る時間は沢山あるってことよ」
茶天は、悠然とした笑みを浮かべて言った。
「本当に怖いのは、“目に見えない敵”と、“時間のないこと”。覚えておくといいわ」
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