秋の蛍

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僕がバスを降りるために、料金箱に小銭を入れようとしていると、運転手が、「あんた、見かけない顔だけど、この村の人間かね?」と言った。 僕は首を横に振った。 「やっぱりな。あんた何の用事でこんな所に来たのかは知らないが、泊るところはちゃんとあるのかね? ここには旅館なんてものはありはしないぞ。それにバスもこれが最終だ。このバスが帰ってしまえば、もう帰る手段はないぞ」 「そうですか。いいんです。まあ、眠くなれば野宿でもしますよ」 僕はそう言ってバスを降りた。 降り際に運転手は「変な奴だな」と呟き、首をかしげた。 そして最終のバスは僕をここに残して行ってしまった。
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