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僕ははちきれそうになっているボストンバッグのファスナーを無理矢理しめてから、会社に電話をかけた。
電話には僕の上司が出た。
僕は、何日かの有給休暇を貰おうかとも思ったけれど、面倒くさかったのでそのまま上司に会社を辞めると告げた。
上司は理由を話せと、電話の向こう側で怒鳴っていたけれど、僕はただ「理由なんてありませんよ。ありきたりな毎日に飽きた、それだけです」と伝えて電話を切った。
僕は急に自由になった気がした。
三十歳の僕が仕事を捨ててしまえば、再び仕事につくのが難しいことくらいわかっていた。
しかし、僕の手足に重くのしかかっていた重りが、一気に取れたような、そんな気がしていた。
僕はボストンバッグを肩にかけ、家を出た。
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