秋の蛍

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僕は幼い頃のことを思い出した。 僕は山奥の小さな村落で生まれ育った。 そこには電車もなかったし、車も農業用の軽トラックが走っている程度で、ほとんど走ってはいなかった。 コンクリート造りの家などなく、みんな古い木造の農家だった。 一日二本しかないバスにも乗る人間などほとんどいなかった。 村の人間は少なく、みんな顔見知りだった。 人を見れば、それがどこの家の誰なのか、すぐにわかった。 もちろん僕のこともみんなに知られていた。 誰が誰の親だとか、誰が誰の子なんてことは関係なく、悪さをすれば怒られたし、良い事をすれば褒められた。 そして毎日がのんびりとしていた。 「都会の生活は慌ただしい」 僕は窓の外を眺めながら呟いた。
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