秋の蛍

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電車は街を抜け、郊外へと出た。 周りの風景にもだんだんと田畑が目立つようになってきた。 いつのまにか、電車の乗客も随分と減っていた。 やがて、電車は終点の駅に着いた。 乗客はみな、ぞろぞろと電車を降りた。 僕は最後にゆっくりと電車を降りた。 向かいのホームに、二両編成の古ぼけた列車が止まっていた。 その列車の行き先がどこであるかも確かめないままに、僕はその列車に乗り込んだ。 列車の中には、還暦をとうの昔に過ぎたような老婆と、帽子をかぶった幼い少年が乗っているだけだった。 僕は車両の端の方のシートに腰を下ろし、隣にボストンバッグを下ろした。 五分ほどぼんやりと窓の外を眺めていると、列車の扉が閉まり、ゆっくりと動き出した。
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