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列車はゆるい速度で走った。
窓の外には一面の田圃が広がっていた。
ここには都会の喧騒も、ネオンの明かりもなかった。
でも、ここは僕の求めている場所ではなかった。
それは何となくわかった。
列車が走り出して十五分ほど経った頃、少年が僕のところにやってきた。
少年は靴を脱ぐと、シートの上に飛び乗り、窓枠に手をかけて外を眺めた。
しばらくそうしてから、ふいに僕の方を向き、「おじちゃん、どこに行くの?」と言った。
少年は好奇心に満ち溢れた瞳で僕の顔をじっと見ていた。
僕は少年に、自分の幼い頃の姿が重なって見えた。
僕の生まれた村にはめったに他所から人が来ることはなかったが、たまにやってくると子供達の好奇心の的にされた。
他所者は、どこに行くの、どこから来たの、何でこんなところに来たの、などと質問攻めにされた。
その先頭に立っていたのはいつだって僕だった。
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