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03.再開
しばらく警備員さんと歩いて、エレベーターに乗って、また歩いて。
何回目かの角を曲がったところで、見覚えのある焦げ茶の瞳と視線がぶつかった。
「ん……、昨日の少年じゃないか。バイトは募集してないぞ?」
僅かに目を見開いて、首を傾げながら冗談(だよね?)を言う女のひと。
「えと、」
「紅嵐ちゃんに用が有って来たんだよ。」
説明しようと口を開きかけた僕の横から口を出した警備員さんに、女のひと……もう藍坂さんって呼ぼう、藍坂さんは、瞬時に呆れ顔になった。
「またですかシゲさん…… あなた仮にも警備員でしょう‘不用意に人を中に入れちゃいけません’って、しょっちゅう人に言われてるくせに……。」
そうなんだけどね、とへらへら笑う、警備員さん。このひとも呼び方わかったし、シゲさんって呼ぼう。
藍坂さんは慣れているのか、くどくど言う気もあまり無いようで、息を吐いてから、ぺすん、と持っていたファイルで警備員さんの胸辺りを軽く叩いた。
「まったく……あんまり仕事してないと、社長に言い付けますよ?」
意地悪そうな笑顔の藍坂さんに、シゲさんは顔をしかめて、
「えっ、それは困るな。彼に怒られるのは苦手なんだ。」
と言った。
知ってて言ってるんですよと笑う藍坂さんに、苦い顔のシゲさん。
そして彼は、内緒にしておいてね!と言って、そそくさと逃げるようにこの場から去ってしまった。
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