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「えっ、あ、」
置いて行かないでくださいよ!と思って手を伸ばしかけた僕に、藍坂さんが振り返る。
「さて……少年は、何の用かな。私に用が有るんだろう?」
そして、そう言いながら首を傾げた。
「あっ……、」
僕は慌ててポケットから名刺入れを出して、藍坂さんへと差し出した。
「こ、これ……落とした、みたいだったので、届けに。」
「……私の名刺入れ……かな?」
首を傾げながらそう確認する藍坂さんに、コクコクと頷く。
「……ぷっ、」
「え、」
いきなり、藍坂さんが吹き出した。
「あははははっ!」
固まる僕をスルーして、藍坂さんは爆笑し始めてしまう。
バンバンと壁を叩いて笑う藍坂さんの前で、周りからちらちら向けられる視線に、いたたまれない気分になった。
「あー、笑った。」
そう言って、笑いすぎて浮かんだ涙を拭いながら、藍坂さんは息をついた。
「……何がそんなに……?」
純粋に気になって首を傾げて聞くと、
「いや、少年の落とし物を拾った私が、その直後に落とし物して、少年に届けて貰う……というのが滑稽だっただけだよ。」
と、けろりとそう話す藍坂さんに、若干ついていけない。
「……おれ、藍坂さんのツボがわからないです。」
正直にそう言うと、藍坂さんは、よく言われるよ、と、また笑った。
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