序章

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「動、いた……」 静まりかえった部屋の中で誰かが呟く。 どこかの研究所のモニタールームらしいそこには十を超す研究員が集まり、目の前の大型モニターに釘付けになっていた。 モニターにはその研究所に併設されている実験用スタジアムが映し出されていた。 そのスタジアムの中央。 研究員たちが注目するモノがそこに立っていた。 パッと見、それは鎧を着た女性のようであった。 しかし鎧というにはメカニカル過ぎているし、また全身を被っている訳でもなかった。 主に両手足と胴体に纏うそれを見て、研究員たちは息を呑む。 その鎧は浮いていた。 地を離れたそれはゆっくりと高度を上げ、軽やかに夜空へ躍り出る。 研究員たちはこの光景を何度も見てきた。 しかし今行われているこの実験は意味が違った。 皆、息をするのを忘れているようにモニターを見つめている。 そんな静寂の中でただ一人、興味無さげに振る舞うものがいた。 その女性科学者は「フンッ」とモニターを一瞥すると面倒くさそうに言い放つ。 「報告はどうした」 「え、あっ……はいっ」 我にかえった研究員の一人が手元のディスプレイに表示されたデータを読み上げる。
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