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「……ろ……き」
深い意識の奥に語りかける声がする。
……我はどうなったのだ?あの戦いで死ねたのだろうか?
あの声は地獄の小鬼で我が目を醒ますのを今か今かと待ち望んでいるのだろうか……。
──なんでもいい、それを自らが望んでいたのだから。
「起きろってんだよ、この根暗烏ッ!」
「ッ!?」
頬に走る激痛に思わず目を見開く。視界に映るのは美しい月夜、そして我の頬を指でつまみ上げ、顔を覗きこめばようやく満足した表情を浮かべる男の顔。
「ったく、ようやく起きたか。危うく鳥殺しの汚名を被る所だったぜ」
「貴様……」
頬以上に身体全体に走る痛みに思わず顔を引きつらすものの我自身の身体を見れば更に目を見開く。
手足に巻かれた白い包帯、所々紅の鮮血が滲み出るものの簡易的な止血はされてある。これでは死ねる傷であろうとそう簡単には死ぬことはない。
「……何故助けた?闇市に我の首でも持っていけば多額の金にはなるぞ?」
「あぁ?俺に生首ぶら下げて町を歩けってか?バーカ、これだから鳥頭は困るぜ。最初に言っただろ、取材させてくれって」
近くの岩に腰掛ければメモ帳の様な物を取りだしパラパラとページを捲る。そしてあるページで指を止めれば奴は口を開きその字を読み上げ始める。
「日烏。元は主となる人物に仕え自分と対になる存在……金烏と一緒に仕えていた。けどその主が人間の裏切りによって殺されそっから完全に人間不審、その後は地獄の底にずっと引きこもり。長年に渡って地獄に堕ちた罪人を悉(ことごと)く裁きという名の殺生を繰り返す……か。ここまでで間違いはあるかい?」
その者が読み上げた言葉に我はただ驚くしかない。それは己自身のあの日から今までの生涯以外の何物でもない。
驚きの感情に呑まれ言葉を失う我を余所に奴は小さく笑みを浮かべる。
「その顔で沈黙は肯定と受け取らせて貰うぜ。この情報はガチ……っとな。しかしまぁ根暗い人生だねぇ、地獄に落ちれば八つ当たりの対象たぁ向こうも世知辛いな」
「……黙れッ!貴様に……貴様に我の何が判ると言うのだッ!」
己の感情を押さえきれず思わず声をあげる。声の震えに全身に痛みが走るがそれさえ忘れる程、感情がより高まっていくのが我自身、手に取る様に判っていた。
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