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いつの間にか己の感情を押さえる事が出来ず、必要以上に主の事を我は口にしていた。
あぁ……いつぶりだろうか。この様に他の者と言葉を交わしたのは。
「……そうかい。ま、あんたのその死んじまった主さんの事は判った……けどな、今のお前はそいつに泥を塗り付けてるだけだぜ?」
「貴……様ッ!もう一度……もう一度言ってみろッ!」
怪我で痛む己の身体は驚く程速く、その者の胸ぐらを左手で掴みこちらに引き寄せる。
そして右手で作り出した影の刃を掴めばその者の首筋に刃を当てる。
「ハァ……ハァ……ぐッ!我が主人に泥を塗り付けてるだと?!今なら、今なら許してやる……先ほどの言葉を取り消せっ!」
「やだね、お前は何も判っちゃいない。そこまで思ってんなら何故気付かないかなぁ?」
刃が擦れ僅かに首筋から滴る紅の血、だがそれすらも動じる事無くため息を溢せば更に言葉を放つ。
「あんたは確かその主と感覚が共有してたんだよな、なら考えた事はあるかい?あんたが人を殺せばそいつはどう思うか……例え死んだ後でも、あんたのその手は主さんの手じゃないかい?」
「……!」
「……考えた事も無かったみたいだな。まぁいい、まずはこの手……離せよ」
先ほどの言葉の意味を理解した瞬間、その言葉より速く、力が抜けた様に崩れ落ちれば右手の刃は消え己の顔を掴む。
「クッ……ハハッ、ハッハッハッ!本当に滑稽だな……」
彼の一言に狂った様に笑い声を上げこの夜空を見上げる。
暗闇の夜空に輝く星々、そして薄明かるく月の光に照らされた己の身体。
目頭が熱を持てば己の顔を右手で隠す様に覆い表情を隠す。今までの人生……なんと愚かで滑稽だったのだろうか。
「あー……自暴自棄になるのはちょっと早いな。そろそろさっきの賭けの願い事、叶えてもらおうか」
「……なに?」
右手で己の目の付近を拭えば我は疑問符を浮かべそのものを見上げる。
賭け……とは先ほどの勝負事の事なのだろうか?
「先ほど我は話をしたではないか?」
「いや、あんたの主の事は別々、あれはただの確認で賭けには関係ねぇし」
子供の言い訳の様に先ほどと売って代わり、へらへらとした態度で言葉を述べる。
「……勝手にしろ」
「なら遠慮無く……よし、決めた。お前、行くとこ無いなら俺と来ないか?楽しいぜ」
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