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主の態度を見てようやく安心出来たのか、連れてきた男の顔から緊張の糸が解れる。
短いショートヘアに人が良さそうな顔つき。第一印象では優しそう……と言う男性の表情がようやく表情を崩した。
……毎回だ、訪れる客の大抵はここに来るまでが何故か挙動不審。その理由も判らない……だが主は聞こえる様にため息を付けば席を立ちこちらに向かって足を運ぶ。
「……主?」
「やーたー。なんど言わせりゃ判る、お客さんにゃ笑顔を、スマイルをって営業販売じゃ王道だろうが」
「すみゃない」
笑顔を浮かべ我(われ)の頬を指で摘まむと上下に軽く引っ張られる。
うまく呂律が回らず言葉とならない言葉を述べれば突然頬から指が離れる。
「ま、判ればよろしい。八咫は仕事は完璧なのになぁ……後で笑顔の練習な。さて、お待たせしましたお客様ー。今回はどういったご用件でしょうかー?」
濃い茶色の肩甲骨まで無造作に伸びた長髪、翡翠の美しい瞳は我から外れ客人である男性に向けられる。
白い無地のインナー、腰まである灰色のコート、青を主張したズボンを見に纏う男性──名をラド・エッジ、そんな彼は私の主であり
──《光》
主と初めて会ったのはどのくらい前だっただろうか。
あの暗く、深い、あの場所から出てどのくらいの時が流れたのか……
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「ぜぃはぁ……あー危な。そんなに俺の取材が嫌かい?……だったら一つ賭けといかないか、日鳥(にちう)さん?」
苦笑いを浮かべながら一人勝手に考え始めれば思い付いたと言わんばかりの表情を浮かべる。だが、我が気になるのはそこではない。
「……なぜ我の名を。名乗った覚えは無いぞ」
「おいおい、天下の情報屋ラドちゃん本店の情報網を舐め腐っちゃあ困るね。俺はその気になりゃ気になるあの子の好みからスリーサイズ、社会の裏の裏情報まで幅広く取り扱ってんだ。名前なんて余裕余裕」
どうだ、と、言わんばかりの態度を示せばこの男は懐から銀の懐中時計を取り出す。
時刻を確認すればパチンッと蓋を閉じ音を奏でる。
「さて、話が逸れたな。賭けってのは簡単、負けた方が勝った方の言う事を聞く。どーよ?」
「……よかろう、我が勝ったら我に関する事全て消させてもらう」
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