平凡、日常

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気がつくと放課後になっていた。 クーラーは授業外では基本的に切られているので教室の中には暑い空気が漂っている。 とうの昔に勉強に飽きてしまった彼女は、自分の腕を枕にして外の景色をぼんやりと眺めていた。時刻はちょうど下校時刻を少し過ぎた頃。 「もうこんな時間か。颯、部活終わったかな」 久我は固まった身体を伸ばすと首を鳴らし立ち上がる。 ベランダの扉を開けて、扉の淵に両膝を抱えて座った。夕方の朱く染まる空を烏が何羽か飛んでいくのをぼんやりと眺める。 帰りたくない。 無意識に彼女は思っていた。中学生の頃に反抗期になったというのに、高校生になった今でもまだまだ大人になれない自分がいる。小さく溜息を吐きながら膝に顎をのせ、足元に並んである枯れかけの草花を訳もなく睨みつけた。 「あれ、ちあきー?」 「颯、お疲れ。部活終わったの?」 「わ、お前そんなとこにいたのかよ」 顎を持ち上げて後ろを振り向く久我に、急いで着替えて来たらしい柴田が、大きなスポーツバックを鬱陶しそうに床に下ろしていた。はーどっこいせと、お爺さんのような台詞を吐くと近くの椅子に腰掛け、ちょうど机の中にあったらしい下敷きを勝手に借りてぱたぱたと扇いでいる。 「その座り方、パンツ見えるぞ」 「誰も見てないからいいの」 全く気にしてない久我に呆れたような溜め息をつくと、机に肘をつき夕暮れ時の校庭をぼんやりと眺めている。生温い風が二人の髪の毛を揺らし、下敷き独特のパコパコという音が、無言の教室に静かに響いていた。 久我は相変わらず仏頂面で足元の植木鉢を見ていたが、柴田はそんな彼女を見ても急かすような事はせず、黙って待っていてくれた。少し強い風が教室に入ってきて彼の短めの髪を撫で、カーテンを揺らす。 「全然涼しくない風だな」 「ないよりましだよ」 「まぁな」 「暗くなってきたみたい」 「だな、帰るか」 下敷きを机に戻すと立ち上がり、スポーツバックを勢いよく持ち上げ肩にかける。千暁も立ち上がるとお尻を叩いて埃を落とし、自分の鞄を取りに机に向かった。
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