平凡、日常

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階段を上って右にまがったところの、二番目の教室。 背が少し高めの少女が階段を上り終え、履きかけの上履きを履き直しながら、目線を自分の教室へと向ける。 「ねえ、はやく!」 多分、彼女と同じクラスであろう女子が教室の入り口で焦ったように立っているのが目に入り、誰かを急かすように教室に向かって声をかけているのが見えた。 靴を履き終えると少女がいるクラスの入り口へと足を運ぶ。 「待って、お財布が見当たらなくて。あった!」 「あったー?急いでー早く行かなきゃすぐにパンが売り切れて……、あ。」 入り口の少女の友人らしき子が、教室の入り口から顔を出す。 それと同時に背が少し高めの少女と鉢合わせ、二人の少女は引きつった顔を彼女に向けていた。さっきまでの明るい表情はどこへやら。 そんな彼女達の反応に呆れながらも、彼女は真顔で挨拶をした。 「おはよ。ごめん、入り口の邪魔だった?」 「あ、いえ、そんなことは!じゃ、じゃあ……」 少女達がそそくさと彼女の前を立ち去ったのを横目に見ながら、少しだけ深呼吸をすると、自分の教室の入り口から教室内を覗き込む。 教室の中はいつも通り賑やかで、仲間同士で集まり昼食をとる者や、次の授業の課題が終わらないと嘆きながら、友人のノートを必死に写し取っている者もいる。 (昼休みだし、そんなに目立たないはず) そんな事を考えながらまた小さく深呼吸すると自然な流れで教室に入り、昼休みのざわついた教室の中から自分の席を探した。 すると、騒がしかった部屋の空気が彼女に気付く生徒が増えるに連れて、一気にひそひそ声の多い教室へと様変わりする。少しの気まずさを感じながら、気にしない素振で自分の席へと足を動かし、見つけた机を見て怪訝そうに眉に皺を作った。 「そこ、私の席なんだけど」 不機嫌そうに声を出すと、彼女の席に座っていた男子が驚いて振り向く。 いつも教室にいる男の子の一人だろうが、あまり記憶に無い。友人と三人で談笑していたらしく、彼女の声を聞くや否や硬い表情でこちらを見てきた。 一層静かになった教室に嫌気がさしたが、周りの反応にいちいち気にするのも面倒だと彼女は無表情を決め込んだ。 目立ちたくはない。が、退いてもらわなければ昼休みの間ずっと立ったままだ。しかし、お互いに顔を見合わせて小声で何か話す男共を見て、彼女は内心むかむかしていた。
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