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一体なんの嫌がらせだ。
男共の煮え切らない態度に痺れを切らした少女は座ってる少年の肩を掴かみ、振り向かせる。
自分でどけないなら服を掴んで退かせてやる、と彼女は思った。
「ちょ、まってまって!ここは俺の席で……」
「なに?声小さくて聞こえないんだけど」
「だから……!」
男子の顔がイラついた表情に変わったと同時に、左腕を強く捕まれ咄嗟に振り向いた。
「千暁!今日は学校きたんだね」
「……颯」
「でももう昼休みだから、欠席と同じかな」
左腕を掴んできた颯と呼ばれた人は、細身な長身の男子生徒で少し怒ったような顔を少女に見せると、すぐに爽やかな笑顔でにこりと笑った。
「この間席替えしたんだよ。千暁はいなかったけど」
「柴田!助かったー。久我さんの席、たぶん向こうだと……」
久我千暁(くがちあき)に肩を掴まれていた男子は柴田颯(しばたそう)を見た瞬間緊張を緩め、笑顔で彼に話しかけている。さっきまでの態度のかけらもない。
久我はその態度が気に食わず顔をしかめたが、柴田に腕を掴まれたまま別の席に案内された。一番右の列の後ろから二番目の席に久我を着かせると、柴田はいつもの憎めない笑顔で前の席の椅子に跨いで座った。
「今日はちゃんと来たな。明日も来れるか?」
「うるさいな。あんたに言う必要ないでしょ」
「お前なぁ、今昼休みだぞ。真面目にこないと卒業できないかんな」
いつも問題ばかり起こす久我に柴田は呆れたような顔をしていたが、素知らぬ顔でどこかの参考書を取り出す彼女に、颯は小さくため息を吐いていた。
席替えなんて知らなかった。仕方ないことだ。
久我は開き直って忘れる事にしたが、昼休みに学校に来てクラスメイトに喧嘩をふっかけようとしていたことは流石に反省し、黙って参考書に目を通していた。
何も言い返さない久我に柴田はつまらなそう顔をすると、机に肘をついて彼女の様子を見つめて来る。さっきまで漂っていた教室の異様な空気も暫くするといつもの昼休みに戻っていた。
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