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久我は気を取り直すと、また参考書の問題を倒すべく今度はシャーペンを握る。
一応勉強はしているつもりだし卒業はしたい。暇だからと始めた勉強が以外にも楽しかったというのもあるお陰か点数もそこそこで悪くはない。
校舎の外から微かに蝉の鳴き声が聞こえる。
彼女はざわざわ言う周りの声が少し気になっていた。柴田がいなくなってから周りの声が大きくなり、他人の気配を強く感じる気がしたからだ。久我は努めて気にしない様にしていた。一応進学校で、制服を着くずしている生徒はいるが、金髪は久我くらいしかいない。
それにそこそこ顔が良くて運動もできる柴田が、たまにしか学校に来ない不良女と仲良くしていれば、嫌でも目立つ。柴田は人がいいし、いい男だとも久我は常日頃から思っていた。しかし彼が久我の面倒を見ているせいか、恋人と呼べる女の子は数える程度しか出来た事がないし、全く長続きしない。
いい加減自立しなきゃなとは思う。
けれども柴田が構ってくれるお陰で虚しく過ごさなくて済んでいるし、久我のことを幼稚園の頃からお世話しているのも相まって、なかなか上手くもいかないのだ。
「ただいま、なんかしょうもない世間話だった。さっきから手が止まってるけど、なにぼーっとしてんだよ。ほら、リンゴジュース」
「わ、戻ってくるのはや……」
「そうか?それでさ、さっきの妹の話の続き!」
ぼんやりと考え事をしていた久我の頭にリンゴジュースの紙パックをのっけて来た柴田に、慌ててそれを受け取ると、また変わらない笑顔で妹の話をしだす彼に思わず溜め息がもれた。購買に寄って戻って来たのか焼きそばパンとカレーパンを手に持っている。
結構まずいと思っていても当の本人がこんなだと、悩んでいるのが阿呆らしく感じる。にへらと笑う颯に、千暁も気の抜けた笑顔を見せた。
「リンゴジュース奢り?やったねー」
「仕方ないから奢ってやるよ。妹姉妹一押しのちーちゃんスマイルとやらに免じて」
「さすが私の天使達。分かってる。しばちゃんの笑顔も可愛いよ」
「ごめん……しばちゃんはやめて。」
颯のからかいに紙パックのリンゴジュースにストローを差しながら昔の呼び方で返せば、凍ったような引きつった笑顔の彼の顔に、彼女は思わず笑ってしまった。
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