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その男は、突然くるりとこちらを振り返った。
うっとおしい前髪のせいで表情は分からないけれど、ぎりぎり見える口元がにやりと歪んだのがわかった。
ひっ!
今の今まで現実感がなかったのに、恐怖が私に現実感を取り戻させた。
呼吸が浅くなり、手も足も震え始める。
腰が抜けているのか、立ち上がることすら出来ない。
大量の人外の者に追い掛けられた時も、蛇女に舌で足首を捕まれた時も、確かに恐怖を感じた。
けれど、こちらを向いてただ立っているだけの、たった一人の男の方が桁違いに怖い。
目を見開いてひたすら震えている私に、その男は突然走り寄ってきた。
あまりの恐怖に頭が真っ白になる。
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