始まりの夏

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巧はただ急いだ。 小田原の街中を縫うようにすり抜け、やがて箱根ターンパイク入口に辿り着く。 『ここから一気に』 そう呟いて巧はターンパイクの急坂を駆け上がる。 夜8時を回った箱根の夜。 対向車線では箱根観光を終えた車のヘッドライトが次々と近付いてきては後方に消えていく。 クゥオーン 甲高い金属音に近い排気音がγのチャンバーから奏でられる。 『先輩…』 ヘルメットの中で巧はそう呟きながら、γを右に左にとコーナーごとに踊らせる。 カリッ、カリッ、ザザーッ 勝手知ったる箱根道、巧はコーナーの度に出した膝のバンクセンサーを路面にキスさせる。 『待っててくださいよ』 そう呟いてターンパイクの最後の直線でフルスロットルをくれた。 カーン 一層甲高い金属音が箱根の夜に吸い込まれた。
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