始まりの夏

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8時間前、巧と浩二の2人は椿ラインにいた。 蒸し暑い土曜の昼、夜勤明けで帰ってきて仮眠をとった浩二に誘われて、巧は一緒に椿ラインを攻めにきていた。 湯河原の街並みを過ぎるとき、巧の目に信用金庫のデジタル時計の表示が暑さでゆらゆらと陽炎のごとく揺れているように見えた。 椿ラインに2人が着くと、まずは軽い体慣らしでマシンを右に左に躍らせながら、ゆっくりと展望コーナーまで駆け上がる。 展望コーナーでUターンして、今度は駆け下りる。 軽いウォーミングアップを終え、下のバス停付近のコーナーでUターン。 1つ手前のコーナーから登ってくる車が見えたらスタートのサイン。 巧と浩二は2台縦に並んで椿ラインを攻めあげる。 椿ラインは箱根の峠道のなかでは入りくねったコーナーの続く低速主体の峠道である。 巧や浩二、稔が好きな御殿場側に面した乙女峠が高速主体の峠道とは反対の性格を持つ。 ブラインドコーナーが多く、コーナーも複雑に連鎖している複合コーナーが多く、単一で攻めることができるコーナーの方が少ない。 二度、三度と2人で駆け上がるうちに1台のマシンが入ってくる。 GSX-R400。 巧のRG250γⅢ、浩二のRG250γⅡとメーカーはスズキで同じだが、4ストマシンであり特性は全然違う。 走りのレベルは巧や浩二とほぼ同等だった。
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