始まりの夏

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何度目かのバトルのスタート前、巧が前、浩二が真ん中、GSX-Rが最後尾の順番で車を待つ。 白い車が見えて3車一斉に飛び出す。 巧はヤケに体がキレて乗れているような感触でγを操る。 浩二は夜勤明けの疲れからか、いつものキレがないようにバックミラーからみてとれる。 3台縦に並んだまま椿ラインの中ほどまでさしかかり、右のややスピードの乗るブラインドコーナーを抜けて、そのまま左ブラインドコーナーん抜ける。 抜けて次の右コーナーに入る前に右のミラーをチラッとみる。 『あっ‼』 巧は叫び、握っていたアクセルを戻す。 ミラーにはクラッシュしてマシンから離れた状態で空を舞う浩二の姿が映っていた。 『やばいっ』 巧はすぐさま左の工事現場の車両置き場になっている原っぱにマシンを入れてUターンし、引き返す。 クラッシュした場所には1台の対向車と浩二のγ、そして横たわったままの浩二がいた。 巧は上り車線の下側の下からくる車に邪魔になる場所にわざとγを止めてハザードを灯した。 浩二のもとに駆け寄り、声をかける。 『先輩‼大丈夫ですか‼』 浩二は横たわったまま、ヘルメット越しに 『やっちまった…。痛ぇ…。』 そう言って眉間に皺を寄せた。 ヘルメットに大きな外傷はなかったが、右足と胸の辺りを強打したようで、浩二は少し痛がっていた。 『どこか打った?』 巧が尋ねる。 『俺のγどうなった?』 浩二は巧の質問に答えずにマシンの心配をした。 『γは大丈夫だから。フロントは逝っちゃったけど、入れ替えれば平気だから。』 巧が答える。 『ざまぁねえな、こんなの。』 『そんなことないって。』 『力也さんにあわす顔がねぇ…』 『大丈夫だって…』 力也さんとは巧たちが通っているバイクのパーツ屋さんのご主人で国際A級ライダーで、ちょうど鈴鹿8時間耐久オートバイレースに参戦するために鈴鹿サーキットに行っていた。 その日はちょうど8耐の予選の日だった。
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