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「だったらどうして会わずに帰るんだ」
鋭く切り返されて、応えに詰まる。
「しかもこっちに駅ないし。なにやってんの」
キレかけた将太の口調。
怒ったときだけよく喋る。
「……そっちこそなに怒ってんの」
「別に怒ってないよ」
「怒ってんじゃん」
「怒ってない」
「怒ってるって」
「ああ怒ってるよ!」
沸点越えした叫びが、無意味な応酬を打ち切った。
闇に包まれ始めた住宅街に響き渡る。
背中を向けたままの俺がもう逃げないと確信しているのか、拘束されない身体。
それが逆に不安になる。
振り返ったとき、そこには誰もいないかもしれない。
足音もなく、彼はいなくなるかもしれない。
振り返るのが怖い。
「……別れたいの?」
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