ひとり

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受話器の向こうの気配が、ほんの一瞬静まりかえった。 『あ、そ。別に関係ないけど』 いつもより硬い声で、いつもの軽い口調。 勇なりになにかを汲み取ったのか、散々絡んでいた話題をすんなり切る。 そして沈黙。 「……なんだよ。用ってそれだけ?」 張りつめた空気を壊すために声をあげた。 『あ? ああ、違う違う。 実はさ、彼女がおまえに会いたいってさ』 「………は?」 予想外の展開に、思考が追いついていかない。 なんだそれ。 会いたいって言われたら会わせるのかよ。 ますます勇らしくない。 隠して遠ざけて、弟の存在すら悟られないようにしてきた男のくせに。 いまの勇は、なんというか、普通に兄っぽい気がしてきた。 どう反応したらいいのかわからない。
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