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「それでも、わたしなりになにか踏み出さなきゃいけないと感じたから、三ツ橋くんに会ってみようと思ったの。
本当は真っ先に息子を抱きしめるべきだってわかってる。その勇気がないのは、わたしが母親としてまだまだ弱いからなのよね」
俺に会いにくるのだって、なかなかできないんじゃないだろうか。
ふとそう思った。
受け入れる準備があるからこそ、こうして冷静に話ができるのだと。
俺の二の舞は避けられるかもしれない。
そんな希望を抱いてもいいのだろうか。
「あの子を迎えに行くくらいじゃないと駄目なのかもしれない。でも、顔を付き合わせたらまた問い詰めてしまうかもしれないと思うと、足がすくむのよ。
自分の子が別の意思を持っていること、頭ではわかっていても感情が追いつかないの」
一度喋り出すと止まらないのは、彼女の癖だろうか。
この母親と生活し、逆に無口な聞き上手になる将太が目に浮かぶ。
「どんなお嫁さんを連れてくるんだろう、どんな父親になるんだろうって、想像してきたものがすべてなくなっちゃうんだもの。
うまく順応するのは難しい。いままでの育て方を否定された気にもなるし」
「育て方とか関係ないです」
「そうね。そうよね」
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