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「どうして……あなたが泣くの?」
静かな声が沈黙を打ち消した。
ハッとして我に返る。
向かいの席の彼女の姿が、滲んでよく見えない。
「……すみません」
慌てて目許を拭うと、予想以上に頬が濡れていて自分で驚いた。
由里子の前で泣いたのは、小学生の頃までだ。
人前で泣いてしまうなんて。
しかも、将太の母親の前で。
……違う。
彼女の前だからだ。
俺が無意識に求めていた家族のぬくもり。
母親のおおらかさ。
自らの不安定ささえ認める潔さ。
なぜだろう。
涙が止まらない。
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