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呼吸をするのも忘れて、俺はその後ろ姿を凝視する。
見間違えたりしない。
あいつは佳奈衣だ。
すぐ手前にある街路樹に、とっさに身を隠した。
髪型こそ変わっていないが、服装は完全に昔の彼女に戻っている。
いつものパンクは、やはりいまの彼氏の趣味なのだ。
本当の佳奈衣はこっち。
ふわふわのロングスカートは、以前の乙女乙女した彼女のイメージそのもの。
……そんな格好をして、ここにいる。
別れたはずの将太の職場に。
約束して来たのだろうか。
迷うそぶりもなくスタスタやってきて、当然のように通用口の前に立ち止まったのだから。
初めて来てキョロキョロしていた俺とは明らかに違う。
……初めてじゃないのか?
ドクン、と耳の奥でいやな音がした。
……将太。
おまえ、まさか。
浮かび上がった推測に、身体じゅうが痺れて動けなくなる。
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