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それだけはいやだ。
絶対にいやだ。
佳奈衣に負けるのだけはいやだ。
頭が沸騰する。
嫉妬に支配されていくのがわかる。
そんなこと、考えてもしかたないのに。
諦めるしかないのに。
でもいやだ。
なんなんだ、あいつ。
ちくしょう。
拳を握りしめる。
すぐに出ていって待ち合わせを阻止できないのは、素直に負けを認めるようで情けなかった。
けれど、どうしても足が動かないのだ。
目だけが佳奈衣を捕らえて離さない。
負け惜しみみたいに睨むだけ。
バカみたいだ。
なにやってんだ、俺。
思うのに、一向に動けない。
じれったい自分を持て余しながらも監視を続けていた、そのとき。
「……将太」
思わずつぶやいた。
視界が悪くてもわかる。
恋い焦がれた彼の姿が、重そうな扉から吐き出された。
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