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足が自然と速度を緩め、のろのろと動きを止める。
目を上げると、工場近辺の景色とはガラリと変わっていた。
住宅街に踏み込んでいたようだ。
暗闇間近。
あの夜の光景とダブる。
胸がキリキリと悲鳴を上げる。
「麟」
息を切らした将太の呼ぶ声が、すぐ背後から聴こえた。
「……僕に会いに来たんじゃないわけ?」
怒ったような声。
声を掛けなかったのに、目敏く気づいて追い掛けてきたのはおまえの勝手。
……なぜ気づいたりしたんだ。
なぜ追ってきたりしたんだ。
「もう付き合ってらんないんじゃなかった?」
あのとき投げつけた言葉。
嘘ばっかり。
「……付き合ってらんねえよ」
ようやく口を突いて出たのは、そんな乱暴な台詞でしかなかった。
言いたかったのは、こんなことじゃないのに。
「だからきっちり別れに来たんだろ」
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