428人が本棚に入れています
本棚に追加
「別れたいのはおまえのほうだろ。
……愛想が尽きただろ、俺なんか」
将太からの反応が途絶える。
なにを指して言ったのかがわかったのだろう。
いやな沈黙。
静まり返った闇のなかを、コツコツ歩くハイヒールの音が微かに聴こえてくる。
近づいている。
誰かくる。
妙な緊張が走る。
あの夜とまたダブる。
あのときの目撃者も、確か女性だった。
道のど真ん中、至近距離で顔も見ずに口喧嘩する男ふたりなんて、相当おかしいと思う。
やばい。
心拍数がこれでもかというほど上昇していく。
「……麟」
不意に後ろから両手が伸びる。
遠慮がちに、ゆっくりと俺の身体を包み込んでいく。
最初のコメントを投稿しよう!