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世界に未練などない……たが、死ぬ理由は無いから、ただ生きている。
それだけだった。
いつも通りに起床し、出勤し、定時を迎えて帰宅する……それが漁七瀬(スナドリ ナナセ)の習慣であった。
「自分の人生は、時計みたいだ」
スーツ姿の青年は、低い声で、そう呟いた。
時計の針が指す様に、生活している……自他共に認めている己の習慣を思い、黄昏時の公園のベンチに腰かけた。
いつもなら、寄り道はせず、真っ直ぐアパートに帰るのだが、気が向かず、だからといい、外食する気もせず、自販機で缶コーヒーを買って公園で時間を潰す。
「妻や子供が生きてた時は、もっと違ったな」
七瀬の妻子は、一年と二月前に不慮の事故で帰らぬ人となったのだ。飲酒運転の車が歩道に突っ込み、そこに居た妻子は、運悪く死んだ。子供は、まだ一歳だった。
悲しかったし、涙は出たが、嘆き暮らしはしなかった……七瀬は、そういう性格だった。
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