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「周りを見ろか……そなたの妻は、変わっているのだな」
「ええ、突拍子がない事を言ったり、やったりしますよ。けど、その台詞の意味だけはわからなくて……一夜くんにも〝自分で気づけ〟と言われたんです」
上司の憂いを秘めた目は変わらないが、彼の表情は、興味深いと言いたげに七瀬の顔を眺めている。
一方で、七瀬は考えてみたものの、さっぱり分からずに、困り果てた表情を浮かべている。
「七瀬、そなたの人生に対する考えはどうなのだ?」
ふいに、上司は、質問を向けた……七瀬は、唖然とした表情を浮かべ、正面に座る彼を見つめた。
和装の青年は、更に続ける。
「そなたは、己の存在を脇に追いやって……いや、他者のように捉えておるな。達観しているというより……そなたは、理解していない様だ……自分を」
そっと手を伸ばし、七瀬に近付けるが、その手は、七瀬に触れるか触れないかの距離のまま、上司は手を引っ込めた。
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