12章§たおやかな狂える手に

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ロウは傷を覆っていた手を広げると、赤黒く固まった血がシワの溝に入り込むことなく、パラパラと殻が剥かれたように落ちる。 「まだ頭の所に、行ってないっすよね」 血に染まった手を握りしめると、ロウはルフシュの方を向く。 本人は頷き、言葉を紡ぐ。 「ですね。行きましょうか……奴隷は逃がしちゃった事ですし」 軽めに言うも、内容は重い。 二人が起こした、奴隷解放は頭であるボーデン・ゼウスタの娘――ファン・ゼウスタからの頼みだった。 始めは断ろうかと思っていたのだが……永劫仕えると決めた、元主――リュウラ・ゼウスタからの頼みを思い出し、二人は頷いたのだ。 優しく、時に厳しいリュウラの下に仕えていた時は――非常に誉れなことで"殺された"時は、愕然としたのを今でも覚えている。 しかし、遺言を違えたくはない。 ――慕っている主の命(めい)なら、なおのこと。
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