12章§たおやかな狂える手に

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「鬱陶しい……」 舌打ちをし、ボーデンは力任せに刃を振り下ろす。 ―――数分後。 大きな室内の傍らに、大き過ぎる血溜まりができ、誰かの叫ぶ反響がゼウスタ家に響き渡るのだった。 ∞∞∞ 時間は九時過ぎ。 レオは紺色の真新しい指貫を着て、それとは不釣り合いな埃を被っている座敷牢を見回っていた。 風呂から上がり、この座敷牢とは別の棟にある"自分の牢"へ真っ直ぐ帰るには、なんか嫌だなと感じたレオは、囚われているサリアンを探している。 「(いないな……以前は、奴隷もいたのに)」 十年前と変わったことは、埃や蜘蛛の巣や鼠の死骸が増えたことぐらいだなと、レオは漂う腐臭に顔を苦ませながら感じ、別の棟へ行こうかと棟の出入口で、思案する。 ――迂闊な行動をしたら捕まるかな? このまま自分の牢へ帰るべきかと、模索していると使用人と思わしき女性がドタドタと走っているのを、後方から目にする。 そして、自分とチラリと目が合うと女性は血相を変えて、こちらへ向かってきた。 「レオさんですよね!!!」 「あぁ……そうだが……」 唐突に自分の名を呼ばれて、反射的に答える。 この素直な部分のせいで、自分は此処に連れ去られるハメになってしまっているのだが――今は、記憶の隅へと追いやることにした。
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