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「なに」
この男も、抑揚なく話す。感情なんてまるですっかり無くしてしまったように。
いつの間にそうしていたのか、わたしは『あなた』の後ろに隠れるようにして、息を止めて二人の様子を窺っていた。
その様子に気づいて、『あなた』が優しく頭を撫でてくれる。
強ばっていた心が、ふうわりほどけるようだ。
「邪魔だって。クルマ」
あの女が『あなた』を指差す。とたんに若い男は不機嫌そうになった。
「おまえ、私有地だから大丈夫って言ってたじゃん」
「言ったけど、でもさぁ、あの人がさぁ──」
いやここは公道だろ、と小さく呟くと、『あなた』はわたしを抱き上げて、くるりと方向を変えて歩き始めた。
『あいつ』の家の庭では、あの女と若い男が何か話しているのが聞こえたが、『あなた』は怒ったように歩き続ける。
少し離れた場所でようやく立ち止まり、わたしを降ろすと
「ああいうの、非常識って言うんだぞ」
そう教えてくれた。
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