「あいつ」

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それから、ふと気がついた。 目を閉じているのに部屋の中が見える。 『あなた』の話す姿、彼女がそれに応えて笑う表情、部屋に射し込むやわらかな日射し。 わたし自身が『あなた』にもたれて眠る様でさえ。 なんだろう。面白い。そのまま辺りを観察する。 ぐるりと見回すと、『あなた』が買ってくれたおもちゃが落ちていた。 わたしのお気に入りだ。いつも引っ張り回しているので、もうぼろぼろの縫いぐるみ。 穴の空いたタオル。これもわたしのお気に入り。 この家に来てすぐに『あなた』がくれたもので、最初はふわふわで、良い匂いがした。今は穴だらけのゴワゴワだ。 天井。こんなに近かっただろうか? そっと手を伸ばすと、触れることができた。足も着けてみる。逆さまに歩いて、照明にタッチ。 『あなた』と彼女と眠るわたしをの様子を見て、気づいてきなさそうだったのでそのまま隣の部屋を覗いた。 いつもわたしたちが眠る寝室。 .
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