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それはよく見ると黒いぼんやりとした影で、『あいつ』の形をしている訳ではない。
けれど『あいつ』に違いない。理由はないけど確信はある。
じっと見ていると、黒い影は片手を伸ばしてゆらゆらと揺れた。手招きしているようだ。
わたしは一歩下がる。黒い影がさらに手を伸ばし、ゆらゆらと招く。
──来い。
どこからか、声が聞こえた気がした。
──来い。俺を独りにするのか。
なんて勝手な。沸き上がってきたのは怒りだ。
今まで『あいつ』にどんな酷い事をされようと、ひたすら自分がいけないと思うばかりで怒りなど感じたことはないのに。
──誰も俺を惜しんでくれない。誰も俺を偲んではくれない。
──寂しい淋しい、独りは嫌だ。
わたしは黒い影を睨み付けて、さらに一歩下がった。
何を勝手な事を。それはあんたが周囲にしてきた行いの結果だ。
わたしを巻き込むな。またわたしを捕らえようとするな。
黒い影はゆらゆらと近づいて来たが、庭の入口あたりで弾かれたように後退した。
入って来られないの?
わたしは首を傾げた。
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