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はっとして振り返る。わたしと『あなた』と彼女の住む、家。
こいつは幸せなモノに近づけないんだ。
その時のわたしの感情を何と表現したら良いだろう。
暖かいこの家に近づくことすら出来ない影を、自分が可哀想な被害者だと思っているこの影を、わたしはたぶん──憐れんだ。
同時に、こんなにも浅ましく矮小なモノに支配されていたのかと、自分を恥じた。
怯えてゆらゆらする影に一瞥くれると、わたしはたいそう情けない気持ちで、家の中へ戻ろうと踵を返し歩き出した。
玄関の扉の前で振り向くと、それは焦ったようにうろうろしながら、さっきよりいっそう黒くゆらゆらと揺れていた。
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