「わたし」

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揺り起こされてわたしは目を覚ました。 水の中にいるようにくぐもった音が遠くから聞こえる。何を言っているのかまでは分からないけれど、これはたぶん、妹だ。 身体に触れてくる手の匂いを確認した。よく分からないけれど、たぶん妹だろう。 最近は鼻も利かなくなったし、目を開いていても真っ白で何も見えない。耳もずいぶん遠くなったから、こうして感触で相手を確かめる。 今が昼なのか夜なのかも判別できないけれど、わたしはいつもたいてい寝ているので、あまり支障はない。 寝るか座るか……姿勢は多少変わっても、与えられたスペースから極力はみ出すことなく、外へ出ることもない。 いつかのわたしと一緒だ。 いつかと違うのは、生きるためにそうしているのではなく、もうすぐ傍まで来ている死の影がわたしを弱らせ、そうさせている事だろう。 .
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