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わたしは見覚えのある、古い一軒家の中にいた。
いったい、いつからそこにいたのか、どこからどうやって来たのか、気がついたらそこにいた。
風呂場近くの粗末なスペースには、がりがりに痩せこけた小さな仔犬が一匹、丸くなって眠っていた。
座布団なのかぼろきれなのか判別のつかないような布の上で、頑ななほど身体を丸めて眠るさまは、自分以外の全てを拒絶しているようにも見えた。
けれど、ぴんと立ったままの耳は、世界を窺っている証拠だ。
どんな些細な音も聞き逃すまいと、どんな小さな空気の揺れも感じ取ろうと、この小さな身体をいっぱいに緊張させて、それでも眠っている。
あばら骨の浮き出た胸は小さく上下し、それがなければ生きているか分からないほど気配を殺して。
わたしはそっと、仔犬の痩せてはいるが柔らかい腹に鼻先を埋め、せめて夢の中ではこの子が独りではありませんように、と祈りを込めた。
仔犬の耳が、ぴくりと震えた。
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