1.

6/6
前へ
/18ページ
次へ
「さすが、元、中学校の先生!」 侑李は明るく声を上げた。 裕翔は定年まで、中学校の教師だった と聞いたことがある。 「僕の担当は音楽だよ」 裕翔は笑いながら、 侑李のほうにふりかえった。 「あ、そうだ。ピアノの修理、明日、 来るそうです。 また弾けますね」 侑李は前に裕翔のピアノを 聴いたことがある。 弾いているのはいつも同じ曲だ。 静かで美しくどこかで聴いたことのある曲 ーーしかし、 侑李はタイトルを思い出せない。 昭和初期には珍しかった ピアノの黒い塗装は、 輝きを失い、傷もついている。 象牙の鍵盤も黄ばんでいるが、 当時はかなり高級なものだったとわかる。 裕翔は目を細め、何かを思い出すように、 ピアノの傷をじっと見つめていた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加