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白髪が艶やかな白銀で紳士な男性にコナを頼むと、風当たりが良さそうな、燦々たる柔らかな陽光が降り注ぐ、鉄製のアームチェアへと腰掛ける。 鉄の肘掛けは、まだ金属的な冷たさを残しているが、温かい。 その鉄の触感の余韻に浸り、索然として来た頃、漆を塗ったかの様なつややかな黒髪のボブカットの小さな若い女性店員が、鉄製のテーブルにコナの入った純白のコーヒーカップを軽く口角を上げながら置き、盆を両手で持つと、これまた微笑み、軽く会釈をし、その場を去って行く。 カウンターの奥に消えた若い女性の背の残像から視線をコナへと向けると、ワーグナーの音色に乗ってコナの深いコクと風味豊かな薫りが鼻腔の奥深くの粘膜を滑らかに刺激する。 その刺激がまた心地好い。コーヒーカップに下唇を付け、啜る。舌に触れると、美麗な苦味の下から不思議と全く以て不快ではない強烈な酸味が芽吹く。 その酸味を喉元に残しながら、ジェイムズ・ジョイスの若い芸術家の肖像の一文に目を移す。 僕は一度読み終えた小説を適当に無造作に開いて、目に留まった一文字から読むのが好きなのだ。
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