終焉

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「引き離してでも、治療を行うことは出来ました。ですが、あの子の心理的な枷として、アンナを使うことを選んだのもまた事実」  神父は、そう言うと目を瞑り、何度か首を横に振る。 「ですが……あの子が、今のあの子で無くなるのだとしたら、二人の関係は変わるのでしょう。それで仕事の記憶が封印されるのであれば、それも悪くは無いのかと思うのです」  そう言って神父は苦笑し、青年の目をじっと見つめる。対するシュバルツは首を傾げ、不安そうに話し始めた。 「それって、あの子を引退させるってこと? 確かに、あの子は情報収集とか出来そうに無いし、後輩を育てるのにも向かない性格だけどさ」  そう問い掛けると、青年は細く息を吐き出す。 「でも、あの子の意思はどうなるの? そりゃ、元々の人格じゃ無いけど」  シュバルツは、そこまで話したところで神父の反応を窺った。一方、神父は暫くの間無言で考え、それからシュバルツの問いに答え始める。 「使えない駒として処分されるのを待つか、記憶を失い違う名で生き延びるか……その二択だとしたら、どうです?」  その一言を聞いた青年は訝しげな表情を浮かべ、掠れた声で話し始める。 「ちょっと待ってよ。処分って、どういうこと? 俺、そんな話は聞いてないよ?」  疑問を言い放つと、青年は目の前に在る机に手を付いた。そして、それを支えにするようにして立ち上がると、怒りと困惑の入り混じった眼差しで神父を見つめる。
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