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「無理ですよ。まあ、ディックが亡くなるなら話は別ですが……それにしたって、あの子はアンナと離れようとはしないでしょうし」
神父は、そう話すと深い溜め息を吐いた。そして、シュバルツの目を見つめると、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「シュバルツ、貴方だって分かっているでしょう? 使えない子は消されてしまうことを」
そう伝えると神父は目を伏せ、ゆっくり息を吐き出した。
「私だって、やらないで済むならそうしたいですよ。でもね、あの子がああいう性格である以上、上の言い分を覆すことは難しいのです」
そう加えると、神父はシュバルツの目を見つめ、その反応を窺った。対する青年は大きな溜め息を吐き、それから掠れた声で言葉を発する。
「分かってるよ、痛いくらいにね。でも、直ぐには納得出来ない。だけど……俺は決まったことには従うし、協力もする」
そう返すとシュバルツは悲しげに目を細め、静かにソファーから立ち上がった。
「じゃ、やることが決まったら連絡して。ちゃーんと手伝いを致しますから」
そう言い残すと、青年は部屋の出入り口に向かって行った。この際、神父は何も言うこと無くシュバルツを見送り、青年は部屋の中を振り返ること無く退室する。
その後、一人残された神父は仕事机の方へ向かい、疲れた様子で椅子に座った。そして、机に肘をついて手を組むと、手の甲に額を付けて目を瞑る。
「嫌な役割ですよ、全く」
そう呟くと、神父は顔を伏せたまま溜め息を吐いた。彼は、そうした後で顔を上げ、ゆっくりとした動きで机上に書類を広げ始める。
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