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「ねえ、さん……なん、で?」
ユーグがそう言うや否や、その姉は右腕を肩の高さほどに上げた。上げられた手には拳銃が握られており、その銃口はユーグの額に向けられている。
「これで、夜に呼び出した理由は分かったよね? こう言うことは、人目につかない暗い時が良い」
そう伝えると、シュバルツは大きく息を吸い込んだ。一方、ユーグは置かれた状況が飲み込めないのか、銃口から逃れようとはしなかった。
「ま、俺は依頼されたことはやらなきゃならない立場だからさ。恨まないでよね?」
青年は、そう言うと細く息を吐き出した。この時、ようやく状況が飲み込めたのか、ユーグは姉を見つめたまま半歩下がった。すると、アンナはそれへ合わせるように前進し、ユーグは更に後方へ下がろうとする。
しかし、ユーグの後ろに居た青年がその肩を掴んで制止し、それ以上下がることは叶わなかった。
「何で? 何で、姉さんが、こんな、こと」
ユーグがそこまで話した時、アンナは銃に左手を添える。
「姉さん、って呼ばないで。私の妹はセーラだけ……だから、ここで消えてね、ユーグ」
アンナは、そう言うと微苦笑した。その瞳には涙が浮かび、両手は小刻みに震えている。
「え、止めて、なんで」
「さようなら!」
ユーグの声を遮って言うと、アンナは拳銃の引き金を勢い良く引いた。すると、その銃口からは白煙が噴き出し、ユーグはその場に倒れ込んでしまう。
それを見たシュバルツは直ぐにしゃがみ込み、アンナは銃を握ったまま膝を付く。その後、青年は拳銃を受け取るとユーグを抱き上げ、アンナを見下ろしながら口を開いた。
「お疲れ様。この子は、俺が運んでいくから」
そう言い残すと、シュバルツは夜道をゆっくり進んで行った。一方、アンナは膝を付いたまま震えており、直ぐに動き出す様子は無かった。
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