プロローグ

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 午前二時。家々から漏れる光は既に消え、多くの生物が眠る刻。草木で囲われた家からは、悲痛な声が響いていた。  二階建て家屋の庭は、長年手入れがされていないのか雑草で覆われ、窓の近くには沢山のゴミが捨てられている。それらは、腐り始めた残飯や汚物で、周囲に不快な臭いを放っていた。  その家から響く声は次第に掠れ、しかし必死に謝り続ける。その叫びは天には届かず、黒衣の断罪人にだけ届いていた。   その身を闇に紛らせるよう黒い外套を纏い、手には黒色の革手袋。そして、黒い布で幼さの残る顔を隠した者が、その家を見つめていた。  暫くして声が聞こえなくなった時、家の玄関がゆっくり開く。すると、屋内からは痩せ細った子供が外に投げ出され、受け身を取ることも無く倒れ込んだ。その子供は、うつ伏せに倒れたまま体を痙攣させ、口から白い泡を吐く。  それを見た者は舌打ちをし、黒い外套を脱いで子供の体に被せた。その者は、外套で子供の体を包み込んで抱き上げ、家の敷地を出た場所に優しく寝かせる。 「目、覚ます、なよ」  そう言って子供の髪を撫でると、断罪人は玄関に向かって歩き始めた。外套を子供に与えた者は、それと同色の衣服を纏い、その腰に巻かれたホルスターには、二丁の拳銃が入れられている。  また、靴の踵部分には金属製の板が嵌められていたが、その者は足音を立てることなく玄関に到着する。黒衣の者は、数拍の間玄関のドアを眺めた後、楽しそうな笑みを浮かべた。
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