闇と光と

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「姉さん、か」  ぶっきらぼうに言うと、今まで目を瞑っていた者は両腕を上方に伸ばした。そして、涙を流しながら欠伸をすると、今度は前方に腕を伸ばす。 「姉さんか……じゃ、ないでしょう? ちゃんとベッドがあるのに、こんなところで寝て」  そう返すと、女性は木に寄りかかっている者の前へバスケットを差し出す。 「神父様も心配しておられました。それに、食事を持っていくようにと」  彼女の話を聞いた者はバスケットを受け取り、自らの大腿部にそれを乗せた。 「戻るの、面倒で、さ」  どこか投げやりに返すと、起きがけの者はバスケットの蓋を開けた。そして、その中をざっと眺めると、一つ一つの料理を確認していく。バスケットの中には卵や野菜が挟まれたパンが入れられ、飲み物の入った水筒も有った。薄茶色をしたパンは小さく切り揃えられており、微かに香ばしい香りを放っている。 「面倒って……ここから寝室は、それ程離れていないでしょう? 今は暖かいから良いけど」 「ねえ、ハムサンド無いの、ハムサンド?」  バスケットを脚に乗せた者は、女性の言葉を遮るように話し出した。対する女性は呆れた様子で溜め息を吐き、対面に居る者の目を真っ直ぐに見つめる。 「有りません! もう……要らないなら、持って帰りますよ?」  彼女の台詞を聞いた者と言えば、慌てて首を振り苦笑する。そして、バスケットの中に手を伸ばすと、直ぐに卵入りのサンドイッチを口に詰め込んだ。
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