闇と光と

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「冗談だよ、冗談。こうやって、食べられる、だけでも、幸せ、だし」  言って、口内のパンを飲み込むと、その者は再度バスケット内に手を伸ばす。一方、女性はどこか悲しそうにその者を見つめ、口を開いた。 「でも、食べる時くらいはベールを取ったら? ここには私しか居ないのだし」  彼女の話を聞いた者は手の動きを止め、顔を上げた。そして、気まずそうに苦笑すると、黒いベールの端に手を触れる。 「姉さん、しか、居ない。けど、やっぱり、嫌だ」  そう返すと、その者はベールから手を離し、野菜が挟まれたサンドイッチを口に押し込む。対する女性はその様子を優しく見つめ、目を細めた。  その後も木に寄りかかった者は食事を続けていき、女性はその様子を優しく眺めていた。そして、全ての料理を食べ終えた時、その者はバスケット内に有った水筒を手に取る。  その水筒は、金属製で細長い円柱の形をしており、蓋を開けると仄かにハーブティーの香りが広がった。そして、その者はバスケットの中から水筒よりやや長い麦稈を取り出すと、そっと水筒の中に差し込んだ。その後、黒いベールを被った者は水筒から出た麦稈の端をそっと咥え、水筒に注がれた液体を吸い上げる。 「おいし」  ふと漏れた声に女性は嬉しそうな笑みを浮かべ、頬に手を当てて首を傾げた。 「良かった、口に合って。今までと配合を変えて淹れたから不安だったの」  女性は、そう言うと口元を押さえて微笑した。彼女の対面に居る者はつられて口角を上げ、麦稈の端から口を離す。
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