7人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
+5+
構わない。
どうせ此処にあったのは、
××のものだったから。
何もなくなったって
構わない。
本棚を空にすると、奥に扉が見えた。
扉を引く度に、ギッギッ…と枠を引っ掻く音がする。
散らかした跡も、この扉も、見つかればすぐに追い付かれる。
それさえ考え及ばぬ程に、彼女は焦っていた。
「ひ…っ!」
扉の向こうに、頭髪が、見えた。
長い黒髪が、埃に埋もれている。
「…出口じゃ…」
彼女の顔に、疲労が浮かんだ。
八つ当たりをするためだけに、視界にあった毛髪を力一杯引っ張る。
「っ…!!」
ずるりと埃の綿の中から、人肉で構成されたものではない、生き物が現れる。
「な…に」
服を着ている。
そこから伸びた手は、人に近く、ヒトに遠い。
「……私が壊れたら、彼の人が嘆く」
ゆっくりと掴んだ黒髪の持ち主が睨みつけてきた。
「ぅ…あ!」
慌てて彼女は手を離す。
「…困っているのなら、助けましょうか?」
埃を払いながら、黒髪のモノは覚醒する。
「貴方の名前をくれるのなら」
最初のコメントを投稿しよう!