6人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、ごめんなさいっ」
ぶつかった女性は慌てて青年に謝る。先程の少年の様子を知っている者がいたならば、その女性に対してついてないなと同情するだろう。しかし──。
「いえ、こちらこそ不注意で……大丈夫ですか?」
先程までの不機嫌な様子とは違い、物腰の柔らかい話し方で女性を気遣う。鋭かった目付きも柔らかくなり、今のその青年は爽やかな好青年といった言葉が適していた。
「あ……ハイ……」
そんな青年に女性は思わず頬を赤く染め、照れたように青年から目を僅かに逸らした。今の状況を忘れ、思わず青年に見とれていたのだ。
「そうですか、ならよかった。それでは僕は急ぎますので、これで──」
しかし、そんな女性の様子に青年は気付いているのか気付いていないのか分からないが、青年は何事もなかったかのように穏やかな笑みを浮かべてみせれば、その女性を起こして一礼し、その場を後にしようとした。
「あ、あの! お名前を──!」
その背を向けて去ろうとする青年に、女性は名前を訊ねかけて、一体自分は何をしているのかと我に返って止めた。また会うか分からない相手の名前を訊くなんてと思いつつも、青年の惹き付けるような魅力が勝手に行動させているのか。
最初のコメントを投稿しよう!